レシピの思考

「かぼちゃの煮物」が教えてくれた ― 同じ料理で… ―

少し前、ある雑誌出版社で続けてお仕事をさせていただいた時のことです。

雑誌、MOOK、連載ページと、たまたま同じ時期に三本の企画が重なりました。担当編集者はそれぞれ違っていたのですが、不思議なことに、どの企画でも「かぼちゃの煮物」のレシピを依頼されたのです。

それは、「嫁ぐときに」のような新生活向けMOOK、季節の和食を紹介する雑誌企画、

そして、「基本のき」をテーマにした連載でしたが、どれも、シンプルなかぼちゃの煮物がよいということでした。

レシピの条件もよく似ていました。

四分の一個分くらいの少量で、出汁は取らず、できるだけ手間をかけず、覚えやすく作りやすいように、と。

使う調味料も、しょうゆ、みりん、砂糖、水と、ごく基本的なものばかりです。

その限られた条件の中で、私は三通りの配合を考え、それぞれ提案しました。

撮影も終わった頃、編集部の試作室で、偶然その三種類を同じ時期に試作し、比べて試食ができたという話を聞きました。

「どれも違っていて、おいしかったです」

「先生、作る人にちゃんと合わせていらっしゃるのですね」

そう編集の方に言われた時、この偶然の機会に少し驚きました。

と同時に、「ああ、自分の考えていたことは、ちゃんと料理に現れていたのだな」と安堵しました。

かぼちゃの煮物は、とてもシンプルな料理です。

けれど、誰に向けて作るのかを考えると、同じ料理でも少しずつ姿が変わっていきます。

新生活向けの企画では、これから料理を始める若いご夫婦を思い浮かべました。

切る大きさは少し大きめに。

調味はしょうゆと砂糖だけを使って、わかりやすい味にする。

若い男性でも、ご飯のおかずになると感じてもらえるような、少ししっかりした味です。

季節の和食の企画では、少し年齢を重ねた方も読者におられるだろうと思いました。

かぼちゃの繊維感をなるべく壊さず、青臭さを包み込むように、みりんを甘味の中心に置きました。砂糖は輪郭を整える程度にして、しょうゆも少し控えめに。

みりんの苦味をきちんと飛ばしたかったので、煮汁はしっかり煮立てました。

「基本のき」の連載は、長く続く企画だったので、そこでは「私自身がおいしいと思う味」を提案しました。

しょうゆ、みりん、砂糖のどれかを強く立たせるのではなく、近い割合で重ねる。

毎日飽きずに食べ続けられる味わいを意識したのだと思います。

しょうゆを軸にしながら、みりんと砂糖の割合を変えるだけでも、料理の印象はずいぶん変わり、様々な味わいのパターンができることを改めて実感した出来事でした。

私は、基本料理や定番料理の仕事を多くいただきます。

もちろん、自分の中に「おいしい」と感じる味の軸はあります。

けれど、企画が変われば、そのたびに作り直して確認します。

最近では、「めんつゆ一本で作りたい」「電子レンジで作りたい」というご要望も増えました。

また、「この配合なら、他の野菜にも合うのでは」と考え、かぼちゃを、さつまいもや長いもにして試すこともあります。

一緒に仕事をする若いスタッフたちと話していると、最近、かぼちゃの煮物は「家で普通に出てくる料理」、「家庭料理の代表格」ではなく、「お弁当に入っているもの」「コンビニで買うもの」になっていることも気づかされました。

その時代、時代の感覚で、どんな味なら作りやすいのか。

どんな配合なら、無理なく受け入れられるのか。

そんなことを、いつも考えています。

塩や酒を使って置き換えれば、出汁を使わなくても味の幅はさらに広がります。

お酒に合うように、少し辛味を効かせたかぼちゃの煮物。

翌日につぶしてマヨネーズを混ぜ、サラダとしてもう一度楽しめる作り置き。

しょうゆ味のおかずが重なる日に合わせた、塩味のかぼちゃの煮物。

同じ料理でも、少し視点を変えるだけで、いくつもの表情が生まれます。

こうしたことも、シンプルな料理だからこそ。

そして、「誰に向けて作るのか」を考えるからこそ、料理には自然にバリエーションが生まれていくのだと思います。

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