レシピの思考

素材のおいしさはどこから -塩について①-

「塩」について、特別な銘柄へのこだわりなどはありません。

むしろ、日々の料理では、「精製塩を使う」ということにこだわっています。

十五年以上前から、減塩メニューの提案の仕事が増え、今ではライフワークの一つになりました。

日本人にとって、減塩はなかなか難しい課題です。

一日の塩分量は、男性で7.5g未満、女性で6.5g未満が目安とされています。

「塩を減らす」ということを、実際にどう考えればよいのだろう。

スーパーへ行くと、棚には迷うほど多くの種類の塩が並んでいます。

料理を研究する立場として、当初はその中から「おいしい塩」を選べばよいのだと思いました。そこでいくつか買い求め、比べてみると、その違いに改めて驚かされました。

世界にはさまざまな塩があり、日本国内だけでも四千種類以上流通しているそうです。

海水塩、岩塩、藻塩。製法によって結晶の形も粒の大きさも違い、しっとりしたもの、さらさらしたものがある。価格も幅広く、手の届かないものもあります。さらに、含まれるミネラルの種類や量によって、味わいも変わります。

ナトリウムは塩辛さを、マグネシウムは苦味を、カルシウムは甘味を、カリウムは酸味を感じさせる。粒の大きさによる口どけも含めて、「肉に合う塩」「魚に合う塩」という使い分けが生まれていくのでしょう。

けれど、減塩を意識するとき、普通の人がそこまで細かく塩を選び分けられるのか、と私は思いました。

小さじ一杯を量るときも、塩によって状態はずいぶん違います。

粒が大きくて、すり切りにしにくいもの。

粒子が細かく、小麦粉のように詰まるもの。

しっとりして、スプーンにべったり残るもの。

その違いは、口どけにも影響します。

粒が大きい塩はなかなか溶けず、細かい塩はすっと溶ける。べったりした塩は、口に入る量さえ安定しません。

人がおいしいと感じる塩分濃度は、およそ0.8〜0.9%と言われています。

これは、塩の主成分であるナトリウムを基準に考えた場合です。

海水からナトリウム成分を取り出した精製塩は、長い間、「化学的な塩」として少し敬遠されてきました。

私自身も、以前はできるだけ使わないようにしていました。

けれど、改めて「料理になぜ塩を使うのか」を考えたとき、見え方が変わってきました。

塩の役割は、素材の味を感じやすくすることです。

野菜に振れば、水分を引き出し、旨味を濃くする。

肉や魚に振れば、たんぱく質の変性を促し、食感や味わいを整える。

その働きを、均一に、素早く行うにはどうしたらよいのか。

さらに、使った量を誰にでも把握しやすくするにはどうしたらよいのか。

そう考えていくと、粒子が細かく均一で、成分が安定している精製塩は、実はとても合理的なのではないかと思うようになりました。

素材の味を引き出すことが塩の役割なら、大切なのは、塩そのものの個性を足すことより、引き出される素材の個性をよく見ることなのではないか。

減塩を考えると、塩は少しでも少なく使いたい。

そのためには、粒子が細かいほうが少量でも全体に行き渡り、「味がついた」と感じやすい。結果として、使う量を抑えやすくなります。

減塩という視点から、さまざまな塩を試し続けた末に、私がたどり着いたのは、「精製塩を使う」という結論でした。

以来、塩は特別な場合を除いて、どんな料理にも精製塩を使っています。

粒子が均一なので、下味も入りやすい。油や調味料とも混ざりやすく、仕上がりの差も出にくいのです。

華やかな個性はないかもしれません。

けれど、素材の味をまっすぐに引き出し、再現性を保ちながら、無理なく減塩へ向かう。

私にとっての塩は、そういう存在になっています。

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